私は「ずーっとあんしん安らか事業」の専門員として、日々相談を受けています。
契約される方は「結婚歴がない」「子どもがいない」といった方々が多いのですが、中には「長生きをし、子ども・きょうだいに先立たれて看取ってくれる人が誰もいない」という90代の方もいらっしゃいます。
まず、ご相談があったら、本当に身寄りがないのかどうか、確認します。中には「遠方に住む子どもや親類に迷惑をかけたくない」という方や、「死んだら何もわからないのだから、葬儀も何もしなくていい」と思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、私は、葬儀や納骨は遺された方々の心の整理をする役割もあるのではないかと考えています。死後事務をする数日の間に遺族は気持ちを落ち着かせ、その方の死を受け入れていくものだと思うので、ただ迷惑をかけたくないという気持ちだけで他人に自分の最期を託すことが最善なのだろうか、と考えます。
ご相談は末期ガンなどを患った方々も多く、ご本人から直接相談されるほか、最近は病院からの相談も増えています。身寄りがいない場合、亡くなられた後の対応をしてくれる人がいないからです。
病院から相談された場合、ご本人が病気を受け止めているか、確認します。というのも、契約した場合は葬儀や納骨に対する希望や遺言といった”死“にまつわることを率直にお話しするからです。病気を受け入れていない方は動揺しかねません。ご本人の気持ちが安定し、心が決まったところで契約するようにしています。
ご自身の病状や余命を受け入れ、いざ契約する時には「自分で決めていく」という覚悟をお持ちのためか、皆さんとても力強いです。
どんな葬儀をしたいのか、どこに納骨されたいのか、遺ったものをどうしたいのか、一つひとつ具体的にご自身の希望を話されます。
最近は訪問診療や訪問看護サービスが充実してきているため、平成26年の入職当時に比べると、在宅看取りを希望される方が増えているように感じます。
私たちは「ご本人の望む最期を迎えさせてあげたい」と思います。多くの人は「もし、ご自宅で病状が急変したら怖いのではないか」と考えるでしょう。「一人で最期を迎えるのは孤独でかわいそう」と思う人もいるかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか。怖くて不安でかわいそうなのでしょうか。
在宅診療を受けていた女性の方が亡くなる3日前のことでした。「薬の袋を開けられない」「体が痛い」とおっしゃるので「入院なさいますか?」とお尋ねしました。
しかし、ご本人は「夫の遺影と形見の時計を見ながら最期を迎えたい」とおっしゃいました。私たちはお元気な頃から会って何度も希望を確認しています。「何年もの長いつきあいがあるのだ」という自負が少なからずありました。
意識が薄らいだ時、医療従事者から「病院に搬送した方がいいのではないか」とすすめられましたが、「病院に行きたくない」というご本人の意志を伝え、ご希望を叶えることにしました。ご本人のお気持ちを周囲に伝えるというのが私たちの重要な役目ではないかと思っています。
契約の際にはお元気だった方が徐々に弱られていく。それを見るのが辛いときもあります。いよいよ最期を迎えるというとき、医療従事者や福祉関係者の皆さんがせつない表情を浮かべる中、ご本人に最終確認する役目は私たちなのだと思い、勇気を出して確認します。
どの方も皆、最期は堂々としていて、ある方はお気に入りの服を見せながら「これを着せて棺に入れてほしい」とおっしゃいました。その言葉は辛いけれど、私は「大丈夫です、お任せください」という気持ちで頷きました。
契約された方々の死に直面するのは悲しく寂しいことです。
しかし、その方の人生観に触れることができ、感謝の思いでいっぱいになります。闘病して亡くなった方には「お疲れさまでした」と言ってあげたいです。
ある方が「自分の骨を拾ってくれる人がいないと思ってずっと不安だったけれど、社協の皆さんがみてくれるとわかったら、思い切って行動できるようになった」と言ってくださいました。その嬉しそうな顔がとても印象に残っています。
「ああ、無事に見送った」と安堵する瞬間は、納骨の時だったり、空っぽになった家を見た時だったり、さまざまです。「死ぬことより死んだ後のことが心配」とおっしゃっていた方が契約によって不安がなくなり、明るく行動的になる姿を見ると、勇気をもらいます。私たちに託された思いにしっかり応えていこうと思っています。
終活サポートセンター
電話番号 092-406-0168
※この記事は令和6(2024)年5月現在の情報です。